2006年8月20日 (日)

夏山の気象(その3)

夏山の話題になるのは、何と言っても恐ろしいのは雷である。

雷は一時的な現象なので登山には支障をきたさないため、比較的甘く見て電撃により、遭難する例は登山人口に比例して近年は減少している。さて、夏空に大きな入道雲が出て、午後になると雷鳴とともに激しい雨が降る。ところが、山の中にいるとその雲の中に入っているため、霧の中で突然強い雨に遭遇して、稲妻が走り、耳の鼓膜が破れるような雷鳴、雹も降ることすらある。
昭和42年8月1日午後1時30分、松本の高校生が西穂高岳独標で一度に11人が電撃に打たれて死亡した事故は山での雷の恐ろしさを端的に物語っている。山での雷の恐ろしさは体験者でなければわからない。

雷の発生原因はいくつかに分類出きるが、夏山の場合の殆どが、強い夏の日射の影響で大気が不安定になる雷(熱雷)が起こる。また、寒冷前線が通過するとただでさい雷が起こるところへさらに不安定が増し、大規模な雷(熱的界雷)となるこの2種類がある。中部山岳の雷は北関東地方に続き雷の発生地となっている。特に、八ヶ岳や浅間山麓、北アルプス南部が多く発生している。雷の発生する時間帯は、正午を過ぎるとグーンと多くなり、午後1時から午後3時が一番多い。

山で雷災を避けるには、一番新しい天気予報を頭に入れておいて、ラジオでの「ガリガリ」と言う雑音に注意を払い雷雲をキャッチしながら行動し、早目に山小屋に着くことが最も安全な方法である。登山中に大粒の雨が降りだしたら、大きな雷雲が頭上にあると予想し、素早く岩かげ、窪地に逃げこむ金属を身体から離すことが応急手段である。雷の中でも最も恐れられているのは「カラ夕立」と言い、雨も降らず雷光雷鳴もなく、突然電撃を受ける場合がある。

20年前白馬山荘小屋番の清水支配人は山の雷について---「平地の雷は上からであるが、山の雷は山膚を這う。青光の火柱が一瞬にピシャーアーと言う音と共に岩肌をお染めた時、登山者が倒れて意識不明となり、雷災を受けたのを目撃した」と恐ろしさを語って頂いたことを思い出す。

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2006年8月 5日 (土)

夏山の気象(その2)

山岳は7月下旬から8月までが一年中で一番気温が上がり、3000m級の稜線では快適の山歩きができる日が多い。しかし、夏山と言っても夏台風が来る年は、台風が迷走したりすると夏山らしい日がほんの数日の年もある。山の気温は常に天気に結びついており、晴れると朝晩は冷えこむが日中は気温が高く快適である。しかし、曇りや雨の日は気温が低く気温の変化が少ない。これは山の気温の特徴の一つである。

 夏山とは一般に7月から8月を言うが、気温で見ると、白馬山頂(白馬山荘海抜2830m)の観測値で10年間の平均気温が10度以上続く期間の40日間を夏山と定義したい.。この期間は梅雨が明け頃から秋をつげるトウヤクリンドウが満開の8月25日頃の短い期間である。この夏山期間で平均気温が11度以上の日を高温期間といい。この高温期間は7月24日から7月29日、8月1日から6日、8月10日から16日の3回出現しており、統計上の好天で、太平洋高気圧の勢力が強い時である。したがって、夏山の天気は太平洋高気圧の強弱により天気と気温が左右される。特に、7月末は梅雨明け後、高気圧の勢力が衰弱し、悪天と低温になる特異日である。夏山の気温は高いものと思っているが晴れの場合でもせいぜい上がっても15度前後である。日射が強いために暑く感じるが、夜はグーンと気温が下って冷蔵庫の中の温度と同じ6度前後まで下がる。雲雨天の場合は8-10度前後の運動を繰り返すに過ぎない。雨の日は霧につつまれ、風の強い場合が多いので、体感温度は0度近くまで下がってしまうので寒さを感じる。

白馬岳登山の場合は雪渓の上を3時間も歩くので、好天の時でも雪温は0度前後あるので足元ほど気温は低く、半ズボンや運動靴を履いているハイキングスタイルの人は体温を奪われる。夏山でも7月初めや8月の終わりは氷が張り、雪、みぞれ、冷雨もある。夏山と言っても霧や雨に打たれると体感気温が下がって、足が前に出なかったり、精神的に不安となり、ベテランの登山者でも不覚をとってしまう。最近はシルバー登山者が多いので気温には特に注意し、寒さには充分気をつけて登山を行って頂きたい。

続きは、夏山の気象(その3)

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2006年7月 9日 (日)

夏山の気象(その1)

山小屋の主人は朝起きると、空を仰ぎ雲の種類や流れ方を見,鳥の鳴き声や移動によって天気を予想する。また、ハイマツの先枯れの多少により冬場の積雪状況や風邪の強弱わかり、高山植物の開花の早遅いによって、登山客の最盛期の水場の確保や水源地の場所を決めると言う。昔の小屋番と酒を酌み交わしながら話を聞いたことがあります。登山者にとって心の安らぎを与えてくれる可れんな高山植物や鳥、そして残雪は彼らにとって、山の気象を黙って教えてくれる唯一の教科書である。それぞれの山岳には経験から出た天気のことわざがたくさんあるので覚えておくと便利である。

さて、梅雨明けると平地では連日30度を越える酷暑が続く。山岳も年の内最も安定した登山日より続き、よく「梅雨明け10日」と言って山の好天を言う。しかし、私が、白馬岳天気相談所に勤務していた7年間の梅雨明け10日の典型的な天気傾向を見ると、

ご来光が5時前後に見られ、山肌が真っ赤に染まる頃は180㎞遠方の富士山まで視界が見える。が。午前10時を回る頃になると決まって積雲の頭がもくもくと成長し山肌を登り始める。この雲が沸く時間は昨日より今日、今日より明日と日が経つに連れ早くなる。

そして、昼近くなると視界100-150mの霧に包まれる。ところが梅雨明け3日ごろになると、そのうちのある雲は積乱雲(雷雲)まで発達し夕立や雷のおまけがつくことが多くなる。この雲は、日没間近になると今度は頂きから谷や沢に向かって滝のように雲が流れる(滝雲)。その頃夕焼けが始まり雲の演出がはじまり素晴らしい景色に見とれる事が多い。このように中部山岳の場合梅雨明け二・三日位から急に夕立や雷にガ多くなる。経験から梅雨明け10日でも午後は夕立・雷があることを予想して早めに行動することが必要である。

ところで、山で雷に遭遇すると、その恐ろしさは言語絶する。「山の早立ちは三文の徳」言われ夏山の場合は午後になると雷が発生しやすいので行動は昼までに少なくとも三分ニの行程を終了し、遅くとも午後二時までには目的地に着くことが山の鉄則である。天気予報はあくまで予想であり、過信することは避けたい。より安全で快適な登山をするにはことわざ、観天望気、天気予報など気象の知識を使って登山者自身で山の天気を判断することが、山の好天の利用方法である。

続きは、夏山の気象(その2)

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